HDDの振動解析による回転速度の特定方法

−HDDの回転速度推定の1方法−
作成
2009/07/11 Sat
公開
2009/07/13 Mon
更新
2011/02/23 Wed

 以前、HDDのスピンドルモータの駆動電圧波形とモータの極数を測定してディスク回転速度を推定する方法を提案しました。しかし、以前の方法では、完全に確定する為に極数を調べる必要があり、このために分解しなければなりません。

 ここでは、分解せずに回転速度を推定するため、振動を計測しそれを周波数解析する方法を試してみました。

 当公開サイトに掲載したWD Caviari Greenシリーズのディスク回転速度が固定(一定)と考えるのが妥当とした、一連の記事に対して投げかけられた疑問や批評に対する回答をまとめて「WD Caviar Greenのディスク回転速度測定についてのまとめ」に記載しています。(2011/02/23 Wed追記)


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◎目次


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1.目的

 以前「WDC Caviar GPのディスク回転速度どうなっているのか」で、「WD10EACS-00ZJB0」のディスクの回転速度をなるべく直接的な方法で計測してみました。その後、その方法を応用して、WD10EACS-00D6B0のディスク回転速度WD10EADS-00L5B1については、そこに記述されている方法使って回転速度を5400rpmと推定しています。

 しかし、その方法では、完全に確定するためには分解してスピンドルモータの極数を確定する必要があります。分解してしまえば、当然そのHDDは使えなくなってしまいます。また、一定の駆動方法を想定しているため、大きく駆動の仕方が変わった場合、駆動電圧波形&極数と回転速度の関係が変わってしまう可能性があります。

 振動で回転速度を推定する方法では、動作中の振動を拾って計測するため、HDDを分解する必要はありません。また、振動という回転と密に関連した物理現象を使うとスピンドルモータ駆動方法の変化などに影響を受けません。このため、振動で回転速度を推定する方法を確立しておけば、上記の弱点を補うことが出来ます。

 しかし、振動で回転速度を推定する方法は、振動という外乱が多く微細なエネルギーの物を測定します。外乱を間違えて回転による振動として計測してしまう恐れもあります。このため、外乱を巧く取り除く必要があります。さらに、回転速度を振動と言う間接的な物で測定しますので、その換算には工夫が必要です。

 以下の文書では其の方法と、実際に推定した結果について解説します。


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2.結論


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3.推定方法

3−1.推定の考え方

 HDDは、スピンドルモーターでプラッタを高速に回転させています。

 この回転系は精密に作成されています。しかし、高速回転ゆえわずかな狂いが振動になって現れます。振動の原因になる狂いの主要因は、偏心や重量バランスのわずかな狂いです。

 ボールベアリングを使った軸受けを使っている頃には、軸受け自身が発生する振動もかなりあったようです。現在は流体軸受けがほとんどのため、軸受け自身が発生する振動はあまりなくなっています。このため、前述の偏心や重量バランスのわずかな狂いによる振動が観測される振動の大部分となっているようです。

 この偏心や重量バランスのわずかな狂いによる振動は、1回転に1回揺れる振動が揺らすときに一番効率が良くなりやすくなり、これが主振動になるのが自然です。この振動は、以下の周波数(主振動周波数)になるはずです。

f[Hz]=N[rpm]/60[rpm/rps]
N[rpm]
回転速度[回転/分]
60[rpm/rps]
単位変換[(回転/分)/(回転/秒)]
f[Hz]
主振動周波数[Hz=1/秒]
[rps]
[revolutions per scond] = [回転/秒]
[rpm]
[revolutions per minute] = [回転/分]

 主要なHDDの回転速度に当てはめると以下のようになります。人に聞こえる低音になります。

表3-1 回転速度と主要振動数の関係
回転速度[rpm]主振動周波数[Hz]
10,000 166.67
7,200 120.00
5,900 98.33
5,400 90.00

 逆に、主振動周波数が測定できれば、回転速度が以下の式から分かります。

N[rpm]=60[rpm/rps]*f[Hz]

 HDDは大きな振動を発生させて周囲に影響を与えないようになっています。多くのHDDは、人の傍で使われるので振動を低く抑えあります。このため、HDDの振動は周囲の振動などに紛れやすくなります。これら周辺の影響を除去しないと、HDDの主振動周波数は特定できません。

 これらの影響の除去が実際に測定する時の重要な点になります。

3−2.実測の準備

 周辺の影響除去のための第1の方策として、コンタクトマイクなどを使うことにしました。コンタクトマイクは振動を直接マイクで拾うので、周辺の騒音のを受けることなく計測が出来ます。以前、通常のマイクで拾ったときは、周辺の音に紛れた全く拾うことが出来なかったのですが、コンタクトマイクを使うことによりうまくいくと考えました。

楽器のチューナー用コンタクトマイク
写真3-1 楽器のチューナー用コンタクトマイク

 用意したのは、安価な楽器のチューナー用コンタクトマイクです。楽器店で\1,260で購入しました。

 チューナー用マイクロホンは周波数特性があまり問題になりません。このため周波数特性があまり良くない代わりに、安価で感度の高いピエゾ素子を使ったマイクロホンが多いようです。これのスペックははっきりしないのですが、ピエゾ素子を使ったマイクのようです。

 これを、いつものデジタルオシロスコープ(IWATSU DS-8824)に接続できるように、プラグの部分を切って加工しました。

 このコンタクトマイクをeSATA接続した裸族のお立ち台eSATAプラス(Century CROSEU2)の上に立てたHDDに取り付け、振動を拾うことにしました。

 下図は、WD Raptor (WD1500ADFD)に取り付けた様子を示しています。

コンタクトマイクの取り付け状況
写真3-2 コンタクトマイクの取り付け状況

 下図(図3-1)はコンタクトマイクの出力の波形です。コンタクトマイクを使っても、商用電源からの誘導ノイズ(60Hz)らしき物と商用電源の高調波と磁場による各種振動が合わさった周波数成分らしき物(120Hz)が信号に大きく重畳してしまいます。このため、直接HDD振動波形を識別することが出来ません。

コンタクトマイクの出力の波形
図3-1 コンタクトマイクの出力の波形

 そこで、周波数解析を行い振動成分を抽出することにしました。利用しているデジタルオシロスコープ(IWATSU DS-8824)は演算機能の一つとしてFFTが行えます。これで周波数解析を行いました。

 試しに、HDDに電源を供給を止めてプラッタが回転していない状態で測定した結果を下図(図3-2)に示します。

バックグラウンドノイズ
図3-2 バックグラウンドノイズ

 FFTで周波数解析を使用とすると窓関数をかける必要があります。難しいことを考えず窓関数として一般的なハニング窓を使用しています。ハニング窓を使用すると、振幅誤差が出ることがありますが相対的な大きさが問題なだけなので、これを選択します。60Hzと120Hzのピークが測定されています。これらを含めてバックグラウンドノイズとなります。

3−3.HDDの振動の実測

WD Raptor (WD1500ADFD)

WD Raptor (WD1500ADFD)の正面
写真3-3 WD Raptor (WD1500ADFD)の正面
Firmware : 21.07QR5
IF       : 玄人志向SATA2RAID-PCIX (Silicon Image SiI3124)
Format   : NTFS
測定時IF : Generation 1:1.5Gbit/sec(SATA150接続)

 下図は、先ほどのWD Raptor (WD1500ADFD)を動作させ、プラッタを回転した状態でのコンタクトマイクの出力を周波数解析した結果です。

WD Raptor (WD1500ADFD)振動周波数解析結果
図3-3 WD Raptor (WD1500ADFD)振動周波数解析結果

 マス目の中央が167.8Hzでその少し左、図3-2のバックグラウンドノイズにはない167.2Hzにピークが測定できています。表3-1から、回転速度はほぼ10,000rpmになります。バックグラウンドノイズの60Hzと120Hzのノイズによるピークもはっきり現れています。

WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)

WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)の正面
写真3-4 WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)の正面
WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)のラベル
写真3-5 WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)のラベル
Firmware : 01.00A01
IF       : 玄人志向 SATA2RAID-PCIX (Silicon Image SiI3124)
Format   : NTFS
測定時IF : Generation 1:1.5Gbit/sec(Century CROSEU2の制約でSATA150接続)

 次は、WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)を測定してみます。下図ではマス目の中央を90.33Hzに調整しています。

WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)無負荷振動周波数解析結果
図3-4 WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)無負荷振動周波数解析結果

 無負荷状態の測定値です。60Hzと120Hzの間に図3-2のバックグラウンドノイズには無かった90.33Hzのピークが観測できています。これより表3-1から、回転速度はほぼ5,400rpmと推定されます。

 このシリーズは回転速度可変の噂がまだあるので、負荷をかけた状態で測定してみました。

WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)シーケンシャルアクセス負荷振動周波数解析結果
図3-5 WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)シーケンシャルアクセス負荷振動周波数解析結果

 CrystalDiskMark2.2でシーケンシャルアクセスの負荷をかけた時の測定結果です。これも、60Hzと120Hzの間に90.33Hzのピークが観測できています。回転速度に変化はないようです。

WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)ランダムアクセス負荷振動周波数解析結果
図3-6 WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0)ランダムアクセス負荷振動周波数解析結果

 CrystalDiskMark2.2でランダムアクセスの負荷をかけた時の測定結果です。これも、60Hzと120Hzの間に90.33Hzのピークが観測できています。やはり回転速度に変化はないようです。

 結局、今回も、回転速度は固定であると言うのが妥当のようです。

Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)

Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)の正面
写真3-6 Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)の正面
Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)のラベル
写真3-7 Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)のラベル
Firmware : CC34
IF       : 玄人志向 SATA2RAID-PCIX (Silicon Image SiI3124)
Format   : NTFS
測定時IF : Generation 1:1.5Gbit/sec(Century CROSEU2の制約でSATA150接続)

 次に、回転速度が7200rpmと公表されている、Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)の測定を行ってみました。下図は、Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)のコンタクトマイクの出力を周波数解析した結果です。マス目の中央を120.8Hzに調整しています。

Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)振動周波数解析結果
図3-7 Seagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)振動周波数解析結果

 先の図3-2 バックグラウンドノイズと違いがはっきりしません。このため、7,200rpmの回転速度の測定を行う事が現状では出来ませんでした。

 商用電源からの誘導ノイズ(60Hz)の高調波と商用電源の磁場による各種振動(120Hz)にプラッタの回転による振動が隠れてしまっているようです。これは、7,200rpmの場合、その振動周波数は表3-1の通り120Hzになってしまうため、120Hzのノイズと区別がつかなくなってしまうためです。


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4.考察

4−1.回転速度推定について

 今回は以下のように推定できました。

 WD Raptor (WD1500ADFD) の推定結果はカタログスペック通りであるので、正しく推定できています。WD Caviar Green (WD20EADS-00R6B0) の推定結果は、同一シリーズのWD Caviar GP (WD10EACS-00D6B0)の速度測定結果や、スピンドルモータの駆動電圧波形による推定結果と矛盾が無く妥当であると考えます。

 一般的な7,200rpmのSeagate Barracuda 7200.12 (ST3500418AS)の回転速度のが120Hzのノイズに埋もれて計測できないという問題が大きいと考えます。

 7,200rpmの回転速度の推定不能問題をのぞけば、非破壊測定のためHDDを壊すことなく回転数が推定できるのは利点であると考えます。

4−2.改善点について

 以下の点が改善できると考えます。

4−3.その他

 この頃のHDDの振動は、検出するのに苦労するほど小さくなっています。コンタクトマイクでないと、外乱に埋もれて巧く拾えません。それがうるさくて困るというひととが、何人も出るのですから、人の感覚器官のは優秀なのでしょう。

 しかし、優秀さのせいだけではないようにも思います。やはり、ケース等、音への変換効率が高い別のものとの共振がなければ、なかなかうるさいとまでの問題にならないのでは無いかと考えます。


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